なぜ今、賃上げが避けられないのか
2026年度の地域別最低賃金は、全国加重平均で1,177円となりました。前年度から56円の引き上げで、目安制度が始まった1978年度以降で2番目に大きい上昇幅です。政府が掲げる「1,500円」の目標まで、残りはわずか323円です。
この上昇は一時的なものではなく、今後も毎年続く構造的な変化と考えるべきものです。最低賃金の近くで賃金を設定している企業ほど、その影響は大きく、放置すれば毎年の賃金改定に追われ続けることになります。
さらに近年、多くの補助金・助成金が「賃上げ要件」とセットで設計されるようになっています。
- 新事業進出補助金:1人当たり給与支給総額の年平均成長率が、事業実施都道府県の最低賃金の直近5年間の年平均成長率以上、または+2.5%以上であることが要件です。達成できない場合、補助金の返還が求められます。
- 業務改善助成金:事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)を50円・70円・90円のいずれかのコースで引き上げ、生産性向上のための設備投資を行うことが条件です。
つまり、「補助金が取れたから賃上げする」という順序で考えると、翌年以降も続く人件費の固定費増に原資が追いつかず、返還リスクや資金繰りの悪化を招く可能性があります。これが、多くの中小企業が陥りがちな”付け焼き刃”の対応です。
賃上げを「投資」に変える発想
賃上げは一度実施すると、翌年以降も続く固定費です。この性質を正しく理解せず、単年度の補助金獲得だけを目的に賃上げを行うと、次のような悪循環に陥ります。
- 原資の裏付けがない賃上げ→翌年の資金繰りを圧迫
- 評価制度が伴わない賃上げ→頑張っている社員とそうでない社員の差がつかず、不満と離職につながる
- 場当たり的な対応の繰り返し→社員の会社への信頼が育たない
一方で、賃上げを「投資」として位置づけ、財務的な原資の裏付けと、評価制度による公正な配分を両立させれば、次のような好循環が生まれます。
賃上げ → 社員の納得感・定着率の向上 → 生産性の向上 → 利益の拡大 → 次の賃上げ原資の確保
この好循環を仕組みとして設計することが、当事務所がご提供する財務戦略の核心です。
原資確保のための財務分析
ステップ1:
賃上げ原資の上限を算出する
決算書・資金繰り表をもとに、労働分配率(粗利益に対する人件費の割合)、人件費率、営業利益率の推移を分析します。
「利益のうち何%を人件費の原資に充てるか」というルールを、感覚ではなく数字であらかじめ決めておくことが、無理のない賃上げの第一歩です。
ステップ2:
対象補助金の賃上げ要件と照合
活用を検討している補助金・助成金の賃上げ要件(給与支給総額の成長率、事業場内最低賃金の引き上げ額など)を確認し、要件を達成するために最低限必要な賃上げラインを特定します。
ステップ1で算出した原資の上限と、補助金が求める賃上げの下限を突き合わせることで、「無理なく」「要件も満たす」現実的な賃上げ幅が見えてきます。
ステップ3:
総額人件費シミュレーションを作成
賃上げには、給与の増加分に加えて社会保険料の増加分(給与増加分のおよそ15%)や、賞与への影響も発生します。
たとえば従業員30名、平均年収400万円の企業が3%の賃上げを行う場合、給与の増加分だけでなく、これに連動する社会保険料の増加も含めた包括的な試算が必要です。ここまで含めて初めて、実行可能な原資の全体像が見えてきます。
営業利益率から原資の上限を算出し(ステップ1)、活用する補助金・助成金が求める賃上げラインと突き合わせ(ステップ2)、社会保険料の増加分まで含めた総額人件費で最終確認する(ステップ3)
この3段階を経ることで、はじめて「無理のない、かつ補助金の要件も満たす」現実的な賃上げ額が見えてきます。原資の裏付けがここで固まったら、次は、その原資を社員一人ひとりにどう公正に配分するか——評価制度と賃金テーブルの設計に進みます。
評価制度と連動させる仕組みづくり
ステップ4:
等級・評価制度と賃金テーブルを
原資の上限が明確になったら、成果・能力向上・勤務態度などの評価要素を設定し、評価ランクに応じて原資を配分する賃金テーブルを構築します。評価の高い社員から優先的に原資を配分する「原資ありき」の設計にすることで、全社一律の昇給による原資の圧迫を避けつつ、頑張った社員に公正に応えることができます。
ステップ5:
就業規則・賃金規程への反映と社員説明
設計した制度を就業規則・賃金規程に反映し、昇給時期や評価結果の反映方法を明文化します。評価結果がどのように給与に反映されるのかを、あらかじめ社員に開示できる形にしておくことが、制度の定着と社員の納得感を大きく左右します。原資の裏付けがある賃上げと、公正な評価制度がセットになって初めて、社員のやる気・定着率・生産性の向上という成果につながります。
原資の裏付けができたら、それを社員一人ひとりに公正に配分する仕組みが必要です。評価ランクに応じて原資を配分する賃金テーブルを設計し(ステップ4)、就業規則・賃金規程に反映して社員へ開示できる形に整える(ステップ5)ことで、はじめて賃上げは「社長の勘」ではなく「納得できる仕組み」になります。
原資の設計(ステップ1〜3)と、配分・運用の設計(ステップ4〜5)の両方が揃ってこそ、賃上げは社員の定着とやる気につながり、生産性向上という次の好循環を生み出します。
財務と労務、両方を一体で見られる強み
評価制度づくりを人事労務の専門家だけで進めると、原資の裏付けが甘くなりがちです。逆に、財務の専門家だけで進めると、社員の納得感や運用面への配慮が不足しがちです。
当事務所は、社会保険労務士と中小企業診断士の両資格を持ち、次のプロセスを一気通貫でご支援しています。
- 決算書・資金繰り表分析による賃上げ原資の算出
- 活用可能な補助金・助成金の賃上げ要件の確認と要件達成の設計
- 等級・評価制度の設計と、原資に基づく賃金テーブルの構築
- 就業規則・賃金規程への反映と、社員への説明資料の整備
「補助金の賃上げ要件を満たしたいが、原資に見合っているか不安」「評価制度を作りたいが、賃上げとどう連動させればいいか分からない」という段階からでも、お気軽にご相談ください。数字(財務)と人(労務)の両方を見られる顧問だからこそ、付け焼き刃ではない、持続的に強くなる会社づくりをご支援します。
まずは情報収集だけでも、お気軽にご相談ください
現状の課題をお伺いしたうえで、最適なサービスをご提案します。まずはお気軽にお問合せください。
