はじめに

「評価制度を作ったのに、社員から不満が出る」「頑張っている人とそうでない人の給料の差がつかない」。こうした悩みを抱える経営者は少なくありません。多くの場合、原因は評価項目や面談方法ではなく、そもそも制度の土台になる「原資」が明確になっていないことにあります。

「給料は社長の勘」で決めている状態では、社員は自分がなぜその評価になったのか、なぜその昇給額なのかを理解できず、納得感が生まれません。評価制度を機能させるには、財務分析によって人件費の原資を明確にし、その範囲内で公正に配分する仕組みを設計することが欠かせません。

なぜ財務分析が評価制度の土台になるのか

評価制度づくりでまず陥りやすい失敗が、「原資ありき」ではなく「理想の制度ありき」で設計を始めてしまうことです。どれだけ立派な評価項目や等級制度を作っても、それを支える人件費の総額が会社の実力を超えていれば、制度は長続きしません。

昇給は一度実施すると翌年以降も継続する固定費になるため、売上だけでなく粗利、営業利益、人件費率、労働分配率、今後の人員計画までを踏まえて原資を決める必要があります。つまり、評価制度の設計は「まず財務分析で原資の上限を把握し、その中で公正に配分するルールを作る」という順序で進めるのが正しい進め方です。

ステップ1:総額人件費の許容範囲を算出する

まず行うべきは、自社が今後どこまで人件費を増やせるかの算出です。粗利益に対する人件費の占める割合(労働分配率)や、営業利益率の推移を確認し、「利益のうち何%を人件費の原資に充てるか」というルールをあらかじめ決めておくことが重要です。

賃上げを行う場合は、給与の増加分だけでなく、社会保険料の増加分や賞与への影響も含めた包括的な試算が必要です。例えば従業員30名、平均年収400万円の企業が3%の賃上げを行う場合、給与増加分に加えて社会保険料の増加分(給与増加分のおよそ15%)も発生するため、単純な給与計算だけでは原資を見誤ります。

ステップ2:等級・評価軸を設計する

原資の上限が見えたら、次に評価の枠組みを作ります。中小企業では、成果に繋がる行動、能力向上に繋がる行動努力、勤務態度といった項目で評価要素を設定し、S・A・B・C・Dのような評価ランクを設ける方法が広く使われています。等級別の賃金レンジ(給与水準の見える化)を整備することで、社員がどの等級でどの程度の給与水準にいるのかを明確にできます。

ステップ3:評価と昇給・賞与を連動させる賃金テーブルをつくる

評価ランクが決まったら、それを昇給額や賞与に結びつける賃金テーブルを設計します。よく使われる考え方は「まず原資ありき」で、決まった総原資の中で評価の高い従業員から優先的に配分していく方式です。賞与であれば、個人別の支給月数を、評価ランクごとの傾斜係数と算定基礎額の合計に基づいて算出する方法が一般的です。

昇給テーブルについても、評価ランクだけでなく、現在の等級やレンジ内の位置を踏まえて昇給額を決めることで、下位等級の給与が圧縮されすぎる問題を避けられます。原資が限られている場合は、全社一律の昇給ではなく、等級・役職・職種に応じた配分に切り替えることも有効な選択肢です。

ステップ4:社員への説明と運用ルールを整備する

制度が完成したら、昇給時期、評価結果の反映方法、就業規則・賃金規程との整合性、そして社員への説明方法まで決めておく必要があります。評価基準や配分ルールが不透明なままでは、どれだけ財務的に妥当な制度であっても社員の納得感は得られません。評価結果がどのように給与に反映されるのかを、あらかじめ社員に開示できる形にしておくことが、制度の定着を左右します。

財務と労務、両方の視点があるからできること

評価制度の設計は、人事労務の専門家だけで進めると原資の裏付けが甘くなりがちで、逆に財務の専門家だけで進めると社員の納得感や運用面への配慮が不足しがちです。当事務所は社会保険労務士と中小企業診断士の両資格を持ち、財務分析による原資の算出から、等級・評価制度の設計、賃金テーブルの構築、そして就業規則・賃金規程への反映までを一体的にご支援しています。

「評価制度を作りたいが、原資に見合っているか不安」「今の制度が形骸化している」という段階からでも、お気軽にご相談ください。